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Selfishly

Selfishly

5、「背中」


 ★ 5:背中



                H18,3/21 20:00



がやがやとざわめくその場所に、
ロイが到着したのは、集合からすでに 軽く1時間は過ぎての事だった。
本当なら 皆と一緒に出るところだったのだが、
出る間際に セントラルからの至急の電話が入り
出てみれば、お偉いと自称している人間からの 
嫌味交じりの激励だった。
電話に出た直後、受話器を切りたくなったが
そうもいかず、仕方なしにメンバーだけを先に行かせたのだ。

上司からの電話を、自分から切るわけにも行かず
延々と続く、演説を右から左に素通りさせながら、
相槌だけは愛想良く打ち、最後には『鋭意努力で頑張ります。』の
お決まりの一言で やっと開放された時には すでに今の時間になっていた。
軍のメンバーとの飲み会自体は そう珍しくも慌てる事もないのだが、
今日は 本当に偶然にも 戻ってきたエドワード達が参加をすると言う事になり、
話を持ち出された最初はノリ気でなかったロイも
俄然 行く気になって、張り切って仕事を片付けての参加だった。


店内は 食事時間から飲む時間帯となって
ますます喧騒を高めていた。
食事も酒も美味しいとの評判の店なので
店内の混雑振りも半端ではなかったが、
ロイは 溢れる人ごみを難なく避けて、
目当ての一角に近づいて行く。

さぞや、にぎやかな事になっているだろうと思ったところ、
思いの他 静かに皆が 一箇所に集まっている。

「?」
何をやってるんだと訝しく思いながら声をかける。

「遅くなった。」
そうロイが 集まっているメンバーに声をかけると
囲んで何やら話していた面々が、一斉にロイの方向を向く。

「た、大佐・・・、お疲れ様です!。」
慌てた拍子に、メガネが落ちそうになったフュリーから
挨拶が返る。

「遅くまでご苦労様です。」
「お疲れ様です。」等など、口々に挨拶を返しながら
そそくさと 元座っていただろう自分の席に戻って行く。
『何だ?』と思いながら、皆が どいた席の方を見てみると・・・。

「~ハボック・・・・。」
地を這うようなトーンで、そこに座っている者の名前を呼ぶ。

「た、大佐、誤解です!
 俺は何もしてません!!

 おい、お前ら 逃げるな、助けんか!。」

慌てふためくハボックが、何とか その場を離れようとするが、
横に居る人間に抱きつかれていては
思うように動けない。
だらだらと流れる冷や汗を感じながら、
引きつる笑いを浮かべながら ロイの方に
恐る恐る顔を向ける。

「あ、あのですね・・・、
 これには色々と理由がありまして~。」
力なく笑うハボックには目も向けず、
ロイは、その横からしがみついている人物を凝視する。

そこには、幸せそうに笑顔を浮かべながら ハボックにしがみついている
エドワードの姿があった。

「あっ、大佐、遅くまでご苦労さまです。
 すみません、何か 兄さん、酔っ払っちゃったようで。」
先ほどまで、ホークアイ中佐と話しに興じていたアルフォンスが
遅れて大佐の登場に気づいて、済まなさそうに挨拶をしてくる。

「アル~!」
救世主の登場に、涙を浮かべてハボックが名前を呼ぶ。

「酔っ払って・・・?
 鋼は 未成年だぞ。

 ハボック、貴様 鋼のに酒を飲ませたのか。」

自分から 逸れていた視線にほっとしたのも束の間、
今度は 先ほどよりも、温度がさらに低くなった視線つきで
大佐の声に、ハボックは 絶体絶命のピンチに自分が陥っている事を体感する。

「ち、違います。
 大将が 自分で飲んだんです!」
とにかく誤解を解こうと、必死に言い募るハボックの目には
涙が浮かんでいる。

「あっ、そうなんですよ~。
 兄さんったら、カクテルとジュースを間違えちゃって飲んだら
 えらく気にいったらしくて、そればかり飲んでて。」

特に今の状況に危機感を感じていないアルフォンスは、
のんびりとした雰囲気で、話を続けてくる。

「そ、そうなんです!
 で、気づいたときには もう、出来上がっちゃってて。」

こめかみが痛くなったロイは、指でこめかみを押さえ
とにかく冷静になろうと気を吐き出した。

「わかった、鋼が自分からのんだのは。

 で、今の状況は 一体 どういう事なんだ。」

エドワードが酒を飲んだ事よりも、何より
今、ハボックにしがみついていることが
ロイの癇に障っているのは間違いないようだ。

「大佐、それは エドワード君が 抱きつき上戸だったからのようです。」
メンバーの中で 唯一冷静な状態のホークアイ中佐が
別にハボックの弁護をするつもりではなく、
あくまでも状況報告の為に、淡々と返事を返す。

「抱きつき上戸?」
聞きなれない言葉に、ロイは妙な表情を浮かべて
中尉をみる。
すると、中尉も 余りまともな状況とは言えない状態で、
片手にウィスキーの瓶を、片手には大振りなグラスを持って
手酌で グイグイと酒を飲み干している。

「そうです。
 最初は 明るくなってはしゃいでいたんですが、
 しばらくすると、ぐったりとなって、傍にいる人誰かれなく
 抱きついたかと思うと、最後にはハボック少尉の傍を
 離れなくなった次第です・・・、ヒック・・・。」

少々 目つきの危なくなっているホークアイだが、
さすが長年の習慣のせいか、上司への報告はきちんとしてくる。

「・・・それに、エドワード君、
 凄く可愛いんですよ・・・。」
被害が及ばぬように退避していたメンバーから、
小さな声で 援護が入る。

「可愛い・・・?」

「そうなんですよ、エドの奴
 普段なら絶対に見れない仕草とか
 返事とかして、かなり 面白いんです。」

「で、我々も調子に乗ってしまった次第です。」

「・・・わかった、もういい。
 ハボック、場所を替われ。」

どうやら、酔ったエドワードは 普段とは違った姿を見せるらしく
それに、メンバーが興に乗って遊んでいたらしい。
今は、何をしていたかより
とにかく、ハボックから エドワードを引き離すのが先決だ。
そう考えたロイは、ハボックに そう声をかけるが
二人がけのソファーで、抱きつかれている為
なかなか、動きにくい。

「ほ、ほら大将、手、手ぇ離して。」
ハボックが 懇願するようにエドワードに回された手を
離そうとするが、エドワードは 余計に抱きつく腕に力を
入れるので、思うように外せない。

「大将~、頼むよ~、
 手え離してくれよぉ~。」
 
そう、涙声になりながらエドワードに声をかけるが
エドワードは、抱きついたまま フルフルと首を振って
嫌々の動作をするだけで、一向に離れようとしない。
また、その動作が可愛いだけあって様になっている。

ハボックとて、今のエドワードに抱きつかれて
最初は 結構、気分が良かった。
エドワードは、見た目だけで言えば 美少女と見間違える程の美形だ。
しかも、身体の造りも華奢で抱き心地も良い、
それに 酔っているせいか 
そこはかとない色気が醸し出されていて
これが、なかなか良いのだ。
ハボックにしがみついて離れなくなった時も、
最初は 他のメンバーに「替われ」と散々言われながら
ちょっと、いい気分でいたのだった。

が、それもロイが来るまではという事だ。
この上司が、この小さな子供を 事の他気にいっており
何だかんだと構っているのは、軍のメンバー周知の事だったから
ロイが来るまでには、遊ぶのもほどほどにしていようと
思った矢先のロイの出現で、
一気に 酔いが冷める気分を味わう事になった。

先ほどから、離れないエドワードとハボックを見る ロイの目が
段々と険しさを増しており、このままでは 覚悟を決めるしかないところまで
ハボックの状況は追い詰められていた。
『お袋、先立つ不幸を許してくれ・・・。』とハボックが心に念じた時に
神に祈りが通じたかどうか、
助けがやってきた。

「ほら、兄さん。
 大佐が来たよ。
 ちゃんと、ご挨拶しなくちゃ。」

と、アルフォンスが エドワードの肩に手をかけて揺する。

どんな状況でも、アルフォンスの声には反応するエドワードが
しがみついて、ハボックの胸元に埋めていた顔を ゆっくりと上げる。

「たいさぁ~。」
普段とは全然違う、少し下っ足らずな口調で
甘えたような声音で、大佐を呼ぶ。

そんなエドワードに呼ばれたロイはと言うと、
思わず、まじまじとエドワードを見てしまう。
無理な動作で頭を動かしたせいか、
きっちりと編まれている金糸がほつれて落ちている。
瞳は 潤んで扇情的な妖しさを湛えており、
うっすらと色づいた滑らかな頬に、
誘うように薄く開いた唇。

そんな風情を見せるエドワードが、甘くロイを呼ぶのだから、
ロイの奥底に隠している劣情を煽らないはずがない。

「・・・はがねの。」
思わず、すこし掠れた声で相手を呼ぶ声が漏れた。

「ほら、挨拶して。」
と重ねて言うアルフォンスに
普段なら絶対に有り得ない素直な動作で
コクンとうなずくと、ロイを見つめて にっこりと笑う。
その邪気の無い笑顔にも、ロイは身体の中に
灼熱の棒を差し込まれたように痺れる。

「よいしょっと・・・。」
掛け声と共に立ち上がり、ペコンとお辞儀をしようとする。

ハボックを見れば、このチャンスにとダッシュで
先に避難したメンバーの方に逃げ去っていった。

「こんばんは。」
ゆっくりと、一言一言を区切るように話 頭を下げるエドワードだが
したたか酔っているせいか、頭を上げようとして ふらりと身体が傾いて行く。

「危ない!」
ロイは すかさず倒れそうなエドワードを支え、
エドワードが 元座っていたソファーに二人で腰をかける。

「大丈夫か、鋼の。」

エドワードを座らせながら ロイが声をかけると、
エドワードは、「うん。」と可愛らしくうなづくと
にっこりとロイを見て笑う。

そんなエドワードを見て、ロイは内心
『皆が 集まるわけだ。』と納得した。

普段のエドワードは、お世辞にも可愛い等と言える言動をしていない。
どちらかと言うと、小憎らしい、不遜な子供だ。
それが、今日の彼はどうだ。
言われた事に、いちいち可愛い動作をつけて返事をし、
にこにこと笑顔を振りまいている。
普段からのギャップを考えると、
皆が興味深深でエドワードに構いたくなるのもうなずける。
が、納得は出来ても、こんなエドワードを見たと思うと
それだけで怒りが湧き起こる。
『まぁ、彼らの待遇は 明日にでも考えよう。
 特に ハボックは、かなりの役得をしたようだから
 帳尻を合わさせないとな。』
そんな、メンバーが聞いたら恐々としそうな考えは
エドワードには見せずに、話しかける。

エドワードも、今度はきちんと座って、ロイの方をにこにこと笑いながら見ている。
笑ってくれるのは嬉しいのだが、
出来たら 先程のように しがみついてくれた方が
自分的には さらに嬉しい・・・、そんな思いが口から出て
エドワードに誘いをかける。

「鋼の、しんどいんだろ?
 良かったら 凭れるといい。」

そう言いながら、エドワードの肩に回した手をさりげなく引き寄せる。
酔っているエドワードに、抵抗心など もともとなかった為、
エドワードの身体は そのまま、ロイの方に倒れこんでくる。
そうすると、エドワードは 先ほどハボックにしていたように
腕を回して、ロイの身体に抱きついてくる。
ロイは 内心嬉しさで一杯になりながら、
努めて平静に 片手をエドワードの腰に回してやり受け止めてやる。

そんな状態で、二人は ポツポツと話をする。
好きな食べ物、嫌いな食べ物
好きな動物、好きな花
今日見た事、旅で見たもの
欲しいもの、興味がある事

軍とは 全くの関係ない話を、エドワードはロイが尋ねるまま
素直に答えを返してくる。

「じゃぁ、好きな人は?」
「うんとぉー、一杯いる。」

「アルフォンス君は?」
「大好き」

「ホークアイ中尉は?」
「お姉さんみたいで大好き。」

「ハボックは?」
「兄ちゃんみたいで好き。」

次次とロイが上げていく名前に、エドワードは1つ1つ答えていく。

最後に、ロイが やや小声になりながら
訊ねてみる。

「じゃあ、私は?」
「・・・・」

「エドワード? 私の事は 好きか?」
「・・・。」

途端に返事を返さなくなったエドワードに
軽いショックを受けながらも、辛抱強く聞きなおす。

「エドワード?」
何度か聞きなおすが 一行に返事を返さないエドワードに
ロイは 落胆をしながらも、無理強いして嫌がられるのも
さらに、辛くなるので追求をやめる。

そして、しばらくは無言で過ぎていく。
ロイには辛い時間だが、エドワードが嫌がる事を強いるわけにはいかない。
気を取り直して、違う話をかけようと思った時、
エドワードが ぽつりと返事を返してくる。

「・・・わかんない。」

ロイはエドワードに言われた言葉が、先程のロイの問いの答えだと気づくまで
少しの間があいた。

「えっ? どうしてだね?
 何ぜ わからないんだい?」
エドワードの予想外の返事に、ロイ自身驚いて聞き返す。

「・・・だって、大佐 変なんだもん。」

「変!?」

またしても、エドワードの答えに驚かされる。

「そう。
 いつも、じっと見てるし、
 俺に す・好きとか言うし、
 それに・・・。」

そこまで言うと、エドワードはきゅっとロイにしがみつく腕に力を入れて
口ごもる。

「それに、何なんだい?」
恋愛経験の乏しい子供の戸惑いが、手に取るようにわかるロイは
可笑しそうにエドワードが言う言葉を聞いている。

「あ、あんな事するし・・・。」
最後のほうは、うずめた胸の中に吸い取られて消えていく。

「嫌だったかい?」
クスクスと笑いながら ロイはその続きを聞きたがる。

「嫌とか・・・より、驚いた・・・から。
 だから、・・・わかんない。」

「そうか、わからないか・・・。
 でも、一生懸命考えてくれてたわけだね。」

ロイが そう言うと、素直にコクリと胸の中でうなずく。

「ありがとう。
 早く答えを出してくれるのを待ってるよ。」

そうロイが囁いてやると、エドワードは また1つ
コクリとうなずいて、身体の力を抜いてくたりとロイに凭れこんで寝てしまう。

「おやおや。」
一生懸命に考えすぎて疲れたのか、酒が回りきったのか
エドワードは そのまま熟睡モードに入ってしまった。
そんな まだまだ子供な彼に、色々と振り回される自分を可笑しく想いながらも
回したその手を離そうとはしない自分が この状況を楽しんでいることも間違いない。

宴会は 、エドワードが寝入ってしまった事もあり
お開きとなり、皆で それぞれの帰宅につく事にした。
ホークアイ中尉は、かなり飲酒をしている事もあり
ロイが、もっとも安全だろうと思ったアルフォンスに
家まで送り届けてもらうように頼んだ。
代わりに自分が エドワードを、宿まで先に送り届ける事にする。


温かい温度を感じながら、ゆっくりと揺れる感触の中
エドワードは まどろみから浮き出す意識で考える。

『こいつの背中って、なんで こんなに暖かくて、
 ・・・安心できるんだ。』
 できたら、ずっとこの温度に包まれていたい気分にさせられる。

 『でも、ダメなんだ・・・、
  俺が そんな甘えを言っちゃあ。
  俺には アルがいるんだから・・・。』

そう自分の心に呟きながら、エドワードは そう言う自分の言葉に
反抗するような寂しさを感じる自分がいる事を知る。

『ダメなんだ・・・。』
≪ 何故? ≫

『甘えるから。』
≪ どうして? ≫

『俺には アルがいる。』
≪ だから? ≫

『ダメなんだよ・・・。』

≪ 寂しい・・・≫

『寂しくなんかない。』

≪ 哀しい・・・≫

眠りの混沌とした意識の中、エドワードはロイから感じる温度に
もう一人の自分が囁く声に反発をする。

『ダメだ、ダメだ、ダメだ』

≪ 何故? 何故? 何故?≫

互いに平行線を辿る意識の中、エドワードは考えることを放棄して
今だけは、この温かさに包まれながら
ひと時の幸せの中にもぐりこんでいく。

『明日からは、また ちゃんと一人で歩くから・・・。』
そんな言い訳を、誰にするともなく思い浮かべると
今度は 完全に意識を手離した。
揺れる背中を感じながら・・・。



翌日、エドワードは 飲んでいた時の記憶をさっぱりと失っており、
しきりと 飲んでいた時の自分を皆に聞きたがったが
頑として 誰も口を割らなかった。
そして、もっとも頼りになるだろうホークアイ中尉が
エドワードご同様に記憶をなくしていた事もあり、
その時の話は 聞けずじまいだった。

もちろん、戒厳令を強いたのはロイで
しかも、今後 エドワード参加の食事には
一切、アルコール類を飲酒する事も禁止された。

そして、軍のメンバーは しばらくロイの無体な残業の指示に
従うはめになり、もっとも悲惨だったのは
もちろんハボックだった事は言うまでも無い。

彼らが その後、エドワードで遊ぶのは 絶対に止めようと
固く決心をする事となったのは、当然だっただろう。


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